もし瞻病随意の医薬なからん、かくのごときの病、定んで治すべからず。当に知るべし。この人必ず死せんこと疑わずと。善男子、この三種の人、またかくのごとし。仏・菩薩に従いて聞治を得已りて、すなわちよく阿耨多羅三藐三菩提心を発せん。もし声聞・縁覚・菩薩ありて、あるいは法を説き、あるいは法を説かざるあらん、それをして阿耨多羅三藐三菩提心を発せしむることあたわず、と。已上
 141(梵行品)また言わく、その時に、王舎大城に阿闍世王あり。その性弊悪にしてよく殺戮を行ず。口の四悪、貪・恚・愚痴を具して、その心熾盛なり。乃至 しかるに眷属のために現世の五欲の楽に貪着するがゆえに、父の王辜なきに横に逆害を加す。父を害するに因って、己が心に悔熱を生ず。乃至 心悔熱するがゆえに、遍体に瘡を生ず。その瘡臭穢にして附近すべからず。すなわち自ら念言すらく、「我今この身にすでに華報を受けたり、地獄の果報、将に近づきて遠からずとす。その時に、その母韋提希后、種種の薬をもってためにこれを塗る。その瘡ついに増すれども降損あることなし。王すなわち母に白さく、「かくのごときの瘡は、心よりして生ぜり。四大より起これるにあらず。もし衆生よく治することありと言わば、この処あることなけん。」
 時に大臣あり、名づけて「月称」と曰う。王の所に往至して、一面にありて立ちて白して言さく、「大王、何がゆえぞ愁悴して顔容悦ばざる。身痛とやせん、心痛とやせん」と。王、臣に答えて言わまく、「我今身心あに痛まざることを得んや。我が父辜なきに、横に逆害を加す。我智者に従いて曾てこの義を聞きき。世に五人あり、地獄を脱れず、と。いわく五逆罪なり。我今すでに無量・無辺・阿僧祇の罪あり。いかんぞ身心をして痛まざることを得ん。また良医の我が身心を治せんものなけん」と。臣、大王に言さく、「大きに愁苦することなかれ」と。