あらあら勝事や。ただふかくこころをしずめて思案あるべし。まことにもって人間は、いずるいきはいるをまたぬならいなり。あいかまえて油断なく仏法をこころにいれて、信心決定すべきものなり。あなかしこ、あなかしこ。
   文明六 二月十六日 早朝に俄に染筆畢而已

6 そもそも、当流の他力信心のおもむきをよく聴聞して、決定せしむるひとこれあらば、その信心のとおりをもって心底におさめおきて、他宗他人に対して沙汰すべからず。また、路次大道、われわれの在所なんどにても、あらわにひとをもはばからず、これを讃嘆すべからず。つぎには、守護地頭方にむきても、われは信心をえたりといいて疎略の義なく、いよいよ公事をまったくすべし。また諸神・諸仏・菩薩をもおろそかにすべからず。これみな南無阿弥陀仏の六字のうちにこもれるがゆえなり。ことにほかには王法をもっておもてとし、内心には他力の信心をふかくたくわえて、世間の仁義をもって本とすべし。これすなわち当流にさだむるところのおきてのおもむきなりとこころうべきものなり。あなかしこ、あなかしこ。
   文明六年二月十七日書之

7 静かにおもんみれば、それ、人間界の生をうくることは、まことに五戒をたもてる功力によりてなり。これおおきにまれなることぞかし。ただし、人界の生はわずかに一旦の浮生なり。後生は永生の楽果なり。たといまた栄花にほこり栄耀にあまるというとも、盛者必衰会者定離のならいなれば、ひさしくたもつべきにあらず。ただ五十年百年のあいだのことなり。それも老少不定ときくときは、まことにもってたのみすくなし。