是の如きの人は解脱を求めざるに解脱自ら至る。阿難復佛に白して言さく。世尊、世間の衆生若し是の如き正念解脱有らば、一切の地獄・餓鬼・畜生の三惡道無かるべし。佛阿難に告げたまはく。世間の衆生解脱を得ず。何を以ての故に、一切衆生は皆虚多く實少く一として正念無きに由て、是の因縁を以て地獄の者は多く解脱の者は少し。譬へば人有りて自らの父母及以び師僧に於て、外に孝順を現ずれども内に不孝を懷き、外に精進を現ずれども内に不實を懷くが如し。是の如き惡人、報未だ至らずと雖も三塗遠からず、正念有ること無し、解脱を得ず。阿難復佛に白して言さく。若し是の如き者は更に何なる善根を修してか正解脱を得んと。佛阿難に告げたまはく。汝今善く聽け。吾今汝が爲に説かん。十の往生法有りて、解脱を得べし。云何が十と爲す。一には觀身正念にして常に歡喜を懷き、飮食・衣服を以て佛及び僧に施さば、阿彌陀佛の國に往生す。二には正念にして甘妙の良藥を以て一の病比丘及び一切衆生に施さば、阿彌陀佛の國に往生す。三には正念にして一の生命をも害せず一切に慈悲せば、阿彌陀佛の國に往生す。四には正念にして師の所に從ひて戒を受け、淨慧もて梵行を修し、心に常に歡喜を懷かば、阿彌陀佛の國に往生す。五には正念にして父母に孝順し、師長に敬奉して憍慢の心を起さざれば、阿彌陀佛の國に往生す。六には正念にして僧房に往詣し、塔寺を恭敬し、法を聞きて一義を解らば、阿彌陀佛の國に往生す。七には正念にして一日一夜の中八戒齋を受持し一をも破らざれば、阿彌陀佛の國に往生す。八には正念にして若し能く齋月・齋日の中に房舍を遠離し、常に善師に詣せば、阿彌陀佛の國に往生す。九には正念にして常に能く淨戒を持ち、禪定を勤修し法を護りて惡口せず。若し能く是の如く行ぜば、阿彌陀佛の國に往生す。