[禁母縁]
三に禁母の縁の中に就て、即ち其の八有り。
一に「時阿闍世」より下「由存在耶」に至る已來は、正しく父の音信を問ふことを明す。此は闍王父を禁ずること日數既に多し、人の交總て絶え、水食通ぜざること二七有餘、命應に終るべし。是の念を作し已りて即ち宮門に致りて守門の者に問はまく。父の王今猶存在せりやと。 問て曰く。若し人一飡の飯を食して、限りて七日に至れば即ち死す。父の王三七を經たるを以て、計みるに命斷えぬべきこと疑無し。闍王何を以てか直に問て門家に、父の王今死し竟れりやと曰はずして、云何ぞ疑を致して猶存在せりやと問へるは、何の意か有るや。答て曰く。此は是闍王意密の問なり。但万基の主なるを以て、擧動隨宜なるべからず。父の王既に是天性情親し、問ひて死せりやと言ふべきこと無し。失當時に在りて以て譏過を成ぜんことを恐るればなり。但以内心に死を標して口に在りやと問へるは、永く惡逆の聲を息めんことを欲するが爲なり。
二に「時守門人白言」より下「不可禁制」に至る已來は、正しく門家事を以て具に答ふることを明す。此れ闍世前に父の王在りやと問へば、今次に門家の奉答することを明す。 「白言大王國大夫人」といふ已下は、正しく夫人密に王に食を奉るに、王既に食を得、食能く命を延べて、多日を經と雖も父の命猶存ずることを明す。此れ乃ち夫人の意にして、是の門家の過に非ず。 問て曰く。夫人食を奉るに、身の上に麨を塗りて衣の下に密に覆ふ、出入往還するに人の見ることを得ること無し。何が故ぞ門家具に夫人食を奉る事を顯すや。答て曰く。一切の私密は久しく行はるべからず。縱ひ巧に牢く藏すとも、事還て彰露はる。父の王既に禁ぜられて宮内に在り、夫人日日に往還す。若し密に麨を持ちて食せしめずば王の命活くることを得るに由無し。今密と言ふは、門家に望めて夫人の意を述ぶなり。夫人密に外人知らずと謂へども、其の門家盡く以て之を覺らざらんや。今既に事窮まりて相隱すに由無し、