口伝鈔

本願寺の鸞聖人、如信上人に対しましまして、おりおりの御物語の条々。

1 一 あるときのおおせにのたまわく、黒谷上人源空浄土真宗御興行さかりなりしとき、上一人よりはじめて、偏執のやから一天にみてり。これによりて、かの立宗の義を破せられんがために、禁中 時代不審、もし土御門の院の御宇か にして、七日の御逆修をはじめおこなわるるついでに、安居院の法印聖覚を唱導として、聖道の諸宗のほかに別して浄土宗あるべからざるよし、これをもうしみだらるべきよし、勅請あり。しかりといえども、勅喚に応じながら、師範空聖人の本懐さえぎりて、覚悟のあいだ、もうしみだらるるにおよばず、あまっさえ、聖道のほかに、浄土の一宗興じて、凡夫直入の大益あるべきよしを、ついでをもって、ことに、申したてられけり。ここに公廷にしてその沙汰あるよし、聖人源空きこしめすについて、もしこのときもうしやぶられなば、浄土の宗義なんぞ立せんや。よりて安居院の坊へおおせつかわされんとす。たれびとたるべきぞや、のよし、その仁を内内えらばる。ときに、善信御房その仁たるべきよし、聖人さしもうさる。同朋のなかに、また、もっともしかるべきよし、同心に挙しもうされける、そのとき上人善信かたく御辞退、再三におよぶ。しかれども、貴命、のがれがたきによりて、使節として、上人善信安居院の房へむかわしめたまわんとす。ときに、縡、もっとも重事なり、すべからく人をあいそえらるべきよし、もうさしめたまう。もっとも