十住毘婆沙論 第五
聖者龍樹造 後秦龜茲國三藏鳩摩羅什譯
易行品 第九
問て曰く。是の阿惟越致の菩薩の初事先に説くが如し。阿惟越致地に至るには、諸の難行を行ずること、久しくして乃ち得べし。或は聲聞辟支佛地に墮す。若し爾らば是大衰患なり。『助道法』
(菩薩資糧論巻三意)の中に説くが如し。
若し聲聞地及び辟支佛地に墮するは 是を菩薩の死と名く 則ち一切の利を失す 若し地獄に墮するも 是の如き畏を生ぜず 若し二乘地に墮せば 則ち大怖畏と爲す 地獄の中に墮するも 畢竟じて佛に至ることを得るも 若し二乘地に墮せば 畢竟じて佛道を遮す 佛自ら經の中に於て 是の如き事を解説したまふ 人の壽を貪る者の如き 首を斬らむとすれば則ち大に畏る 菩薩も亦是くの如し 若し聲聞地及び辟支佛地に於ては 應に大怖畏を生ずべし
是の故に若し諸佛の所説に易行道の疾く阿惟越致地に至ることを得る方便有らば、願はくは爲に之を説きたまへと。答て曰く。汝が所説の如きは是儜弱怯劣にして大心有ること無し、是丈夫志幹の言に非ざるなり。何を以ての故に、若し人願を發して阿耨多羅三藐三菩提を求めむと欲して未だ阿惟越致を得ず、其の中間に於て應に身命を惜しまず晝夜精進して頭燃を救ふが如くすべし。