斯の惡事を見るに忍びず、遂に耆婆と顏を犯して諫を設くることを明す。「時」と言ふは、闍王母を殺さんと欲する時に當れり。「有一大臣」と言ふは、其の位を彰す。「月光」と言ふは、其の名を彰す。「聰明多智」と言ふは、其の德を彰す。「及與耆婆」と言ふは、耆婆は亦是父の王の子にして、柰女の兒なり。忽に家兄の母に於て逆を起すを見て、遂に月光と同じく諫む。「爲王作禮」と言ふは、凡そ大人を諮諫せんと欲する法は、要ず須く拜を設けて以て身敬を表すべし。今此の二臣も亦爾なり。先づ身敬を設けて王の心を覺動し、手を斂め躬を曲げて方に本意を陳ぶ。又「白言大王」といふは、此れ月光正しく辭を陳べんと欲して、闍王の開心聽攬せんことを得んと望むことを明す。此の因縁の爲の故に須く先づ白すべし。「臣聞毗陀論經説」と言ふは、此れ廣く古今の書史、歴帝の文記を引くことを明す。古人云く、言典に關らざるは君子の慙づる所なりと。今既に諫事輕からず、豈虚言もて妄に説くべけんや。「劫初已來」と言ふは、其の時を彰す。「有諸惡王」と言ふは、此れ總じて非禮暴逆の人を標することを明す。「貪國位故」と言ふは、此れ非意に貪る所、父の坐處を奪ふことを明す。「殺害其父」と言ふは、此れ既に父に於て惡を起すことは久しく留むべからず、故に須く命を斷ずべしといふことを明す。「一万八千」と言ふは、此れ王今父を殺すことは彼と類同することを明す。「未曾聞有無道害母」と言ふは、此れ古より今に至るまで、父を害して位を取ることは、史籍やや談ずるも、國を貪りて母を殺さんこと、都て記せる處無きことを明す。若し劫初已來を論ぜば、惡王の國を貪るや、但其の父を殺して慈母に加へず。此れ則ち古を引きて今に異す。大王今國を貪りて父を殺す。父は則ち位の貪るべき有り、古に類同せしめつべし。母は即ち位の求むべき無し、橫に逆害を加ふ。是を以て今を將て昔に異す。「王今此の殺母を爲さば、刹利の種を汚さん」と言ふ。