是を以て一一具に王に向ひて説く。 「沙門目連」と言ふ已下は、正しく二聖空に騰りて來去し、門路に由らず、日日に往還して王の爲に法を説く。大王當に知るべし、夫人の進食先に王の敎を奉けず、所以に敢て遮約せず。二聖空に乘ず、此れ亦門制に猶らずといふことを明す。
三に「時阿闍世聞此語」より下「欲害其母」に至る已來は、正しく世王の瞋怒を明す。此れ闍王既に門家の分疏を聞き已りて、即ち夫人に於て心に惡怒を起し、口に惡辭を陳ぶることを明す。又三業の逆と三業の惡を起す。父母を罵りて賊と爲るを口業の逆と名け、沙門を罵るをば口業の惡と名く。劒を執りて母を殺すを身業の逆と名け、身口の所爲心を以て主と爲すを、即ち意業の逆と名く。又復前方便を惡と爲し、後の正行を逆と爲す。「我母是賊」と言ふ已下は、正しく口に惡辭を出すことを明す。云何が母を罵りて賊と爲る、賊の伴なればなり。但闍王の元の心、怨を父に致す、早く終らざることを恨む、母乃ち私かに糧を進むるが爲の故に、死せざらしむ。是の故に罵りて我が母は是賊なり、賊の伴なればなりと言ふ。「沙門惡人」と言ふ已下は、此れ闍世母の食を進むることを瞋り、復沙門王の與に來去することを聞きて、更に瞋心を發さしむることを致すことを明す。故に何なる咒術有りてか、惡王をして多日死せざらしむと云ふ。「即執利劒」と言ふ已下は、此れ世王の瞋盛にして、逆母に及ぶことを明す。何ぞ其痛ましいかな。頭を撮りて劒を擬す、身命頓に須臾に在り。慈母合掌して身を曲げ頭を低れて、兒の手に就く。夫人爾の時熱き汗徧く流れて、心神悶絶す。嗚呼哀なるかな。怳忽の間に斯の苦難に逢へること。
四に「時有一臣名曰月光」より下「卻行而退」に至る已來は、正しく二臣切諫して聽さざることを明す。此れ二臣は乃ち是國の輔相、立政の綱紀なり、萬國に名を揚げ八方昉習せんことを得んと望む。忽に闍王の勃逆を起して、劒を執りて其の母を殺さんと欲するを見、