六に「耆婆白言」より下「愼莫害母」に至る已來は、二臣重ねて諫むることを明す。此れ耆婆實をもて大王に答ふることを明す。若し我等を得て相と爲さんと欲はば、願はくは母を害すること勿れと。此れ直諫すること竟んぬ。
七に「王聞此語」より下「止不害母」に至る已來は、正しく闍王諫を受けて母の殘命を放すことを明す。此れ世王既に耆婆が諫を得已りて、心に悔恨を生じ、前の所造を愧ぢて即ち二臣に向ひて哀を求め命を乞ふ、因て即ち母を放して死の難を脱れしめ手中の劒を本の匣に還歸することを明す。
八に「敕語内官」より下「不令復出」に至る已來は、其の世王の餘瞋母を禁ずることを明す。此れ世王臣の諫を受けて母を放すと雖も、猶餘瞋有りて外に在らしめず、内官に敕語し深宮に閉置して、更に出でて父の王と相見えしむること莫きことを明す。
上來八句の不同有りと雖も、廣く禁母の縁を明し竟んぬ。
[厭苦縁]
四に厭苦の縁の中に就て即ち其の四有り。
一に「時韋提希」より下「憔悴」に至る已來は、正しく夫人子の爲に幽禁せらるることを明す。此れ夫人死の難を勉ると雖も更に深宮に閉ぢ在かれて守當極めて牢くして、出づることを得るに由無し。唯念念に憂を懷くことのみ有りて自然に憔悴することを明す。傷歎して曰く。禍なるかな今日の苦、闍王喚びて利刃の中間に結し、復深宮に置くの難に遇値ふと。 問て曰く。夫人既に死を勉れて宮に入ることを得、宜しく訝樂すべし、何に因てか反て更に愁憂するや。答て曰く。即ち三義の不同有り。一には夫人既に自ら閉ぢられて、更に人として食を進めて王に與ふるもの無し。王又我が難に在るを聞きて、轉た更に愁憂せん。今既に食無し、憂を加へなば王の身命定んで久しからざるべきことを明す。二には夫人既に囚難を被る、何れの時にか更に如來の面及び諸の弟子を見たてまつらんといふことを明す。三には夫人敎を奉けて禁ぜられて深宮に在り、内官守當して水泄だも通ぜず、旦夕の間唯死路を愁ふることを明す。