綽空の字を改めて、同じき日、御筆をもって名の字を書かしめたまい畢りぬ。本師聖人、今年は七旬三の御歳なり。『選択本願念仏集』は、禅定博陸
月輪殿兼実・法名円照 の教命に依って撰集せしむるところなり。真宗の簡要、念仏の奥義、これに摂在せり。見る者諭り易し。誠にこれ、希有最勝の華文、無上甚深の宝典なり。年を渉り日を渉りて、その教誨を蒙るの人、千万といえども、親と云い疎と云い、この見写を獲るの徒、はなはだもって難し。しかるに既に製作を書写し、真影を図画せり。これ専念正業の徳なり、これ決定往生の徴なり。仍って悲喜の涙を抑えて由来を縁を註す。
慶ばしいかな、心を弘誓の仏地に樹て、念を難思の法海に流す。深く如来の矜哀を知りて、良に師教の恩厚を仰ぐ。慶喜いよいよ至り、至孝いよいよ重し。これに因って、真宗の詮を鈔し、浄土の要を摭う。ただ仏恩の深きことを念じて、人倫の嘲を恥じず。もしこの書を見聞せん者、信順を因として疑謗を縁として、信楽を願力に彰し、妙果を安養に顕さんと。