壽命短長あり。魂神命精、自然に趣に入りて、形を受け胎に寄り、當に獨り値ひ向ひ、相從ひ共に生ずべし。轉た相報償して當に相還復すべし。殃惡・讁罰、衆事未だ盡きず、終に離るることを得ず。其の中に展轉して、世世累劫にも、出づる期有ること無く、解脱を得難し、痛言ふべからず。天地の間に、自然に是有り。時に臨みて卒暴に至らずと雖も、時に應じて恒に自然の道を取りて、皆當に善惡之に歸すべし。是を一の大惡と爲し、一の痛と爲し、一の燒と爲す。勤苦是の如くにして、愁毒呼嗟す。比へば劇火の起りて人の身を燒くが如し。人能く自ら其の中に於て、心を一にし意を制し、身を端しくし行を正しくして、獨諸の善を作し、衆の惡を爲らざる者は、身獨り度脱して其の福徳を得、長壽・度世・上天・泥洹の道を得べし。是を一の大善と爲す。
佛言はく。其の二惡とは、世間の帝王・長吏・人民・父子・兄弟・室家・夫婦、略々義理無く、政令に從はず、轉た淫奢驕慢にして各々意を快くせんと欲し、心を恣にして自在に更相に欺調(あざむ)き、殊に死を懼れず、心口各々異にして言念實無く、佞諂にして忠ならず、諛媚巧辭にして、行端正ならず、更相に嫉み憎み、轉た相讒惡して、惡枉に陷入す。主上明かならず、心察かに照らさずして臣下を任用す、臣下存在して、度を踐みて能く行ひ、其の形勢を知りて位に在りて正しからず、其が爲に調(あざむ)からる、妄に忠良を捐じて、天心に當らず、甚だ道理に違す。臣は其の君を欺き、子は其の父を欺き、弟は其の兄を欺き、婦は其の夫を欺く、室家・中外・知識相紹ぎて、各々貪婬の心を懷き、獨り恚怒・蒙聾・愚癡にして益々多く有らんことを欲す。尊卑・上下、男と無く女と無く、大と無く小と無く、心倶に同じく然なり。自ら己を厚くせんことを欲し、家を破り身を亡じて、前後・家室・親屬を顧念せず、之に坐りて族を破る。或時は家の中内外・知識朋友・郷黨・市里・愚民、轉た共に事に從ひ、更相に利害し、錢財を爭ひ鬪ひ、忿怒して仇を成し、轉た勝負を爭ふ。富を慳み心を焦して肯て施與せず、專專に守惜し、寶を愛して貪り重んず、之に坐りて思念し心勞し身苦しむ。是の如くにして竟に至り恃怙する所無し、獨り來り獨り去りて、一も隨ふ者無し。善惡・禍福・殃咎・讁罰、命を追ひて生ずる所なり。或は樂處に在り、或は毒苦に入る、然して後乃し悔ゆとも、當に復何ぞ及ぶべし。或時は世人、心愚にして智少く、善を見ては誹謗して之を恚り、肯て慕ひ及ばんとせず、但惡を爲さんと欲して妄に非法を作し、但盜竊を欲して常に毒心を懷き、他人の財物を得て用て自ら供給せんと欲ふ。