十六の別處有り。其の中の一處は、一切間無く、乃至虚空まで皆悉く炎燃え、針の孔許も炎の燃えざる處無し。罪人は火の中にして、聲を發して唱へ喚べども、無量億歳常に燒かるること止まず。淸淨の優婆夷を犯せる者、此の中に墮す。復別處有り、普受一切苦惱と名く。謂く炎の刀もて一切の身の皮を剥ぎ割きて、其の肉をば侵さず。既に其の皮を剥げば、身と與に相連ねて熱地に敷き在き、火を以て之を燒き、熱鐵の沸けるを以て、其の身躰に灌ぐ。是の如く無量億千歳、大苦を受くるなり。比丘の酒を以て持戒の婦女を誘ひ誑かし、其の心を壞り已りて、然る後共に行じ、或は財物を與へたる者、此の中に墮す。餘は經の中に説くが如し。『正法念經』略抄
[一、厭離穢土 地獄 阿鼻]
八に阿鼻地獄とは、大焦熱の下、欲界最底の處にに在り。罪人彼に趣き向ふ時、先づ中有の位にして啼哭して偈を説きて言く。一切は唯火炎なり、空に遍して中間無し。四方及び四維、地界にも空しき處無し。一切の地獄の處には、惡人皆遍滿せり。我今歸する所無く、孤獨にして同伴無し。惡處の闇の中に在り、大火炎の聚に入る。我虚空の中にして、日月を見ざるなりと。已上 時に閻羅人、瞋怒の心を以て答て曰く。或は增劫、或は減劫に、大火汝が身を燒く。癡人已に惡を作る、今何を用てか悔を生ずるや。是天・脩羅・健達婆・龍・鬼に非ず、業の羂に繋縛せらるるなり、人能く汝を救ふもの無し。如し大海の中にして、唯一掬の水を取らんに、此の苦は一掬の如く、後の苦は大海の如しと。既に呵責し已れば、將ゐて地獄に向ふ。彼を去ること二万五千由旬にして、彼の地獄にて啼き哭ぶ聲を聞きて、十倍して悶絶す。頭面は下に在り、足は上に在りて、二千年を逕、皆下に向ひて行く。『正法念經』略抄 彼の阿鼻城は、縱廣八万由旬なり。七重の鐵城、七層の鐵網あり。下に十八の隔有りて、刀林周匝せり。四の角に四の銅の狗有りて、身四十由旬なり。眼は電の如く、牙は劒の如く、齒は刀の山の如く、舌は鐵の荊の如し。一切の毛孔より皆猛火を出し、