七に大焦熱地獄とは、焦熱の下に在り。縱廣前に同じく、苦の相も亦同じ。『瑜伽論』『大論』 但し前の六の地獄の根本と別處との一切の諸苦、十倍して具に受く。具に説くべからず。其の壽半中劫なり。殺・盜・婬・飮酒・妄語・邪見、并びに淨戒の尼を汙せる者、此の中に墮す。此の惡業の人は先づ中有に於て、大地獄の相を見るに、閻羅人有りて、面に惡き状有り手足極めて熱くして、身を捩らし肱を怒らす。罪人之を見て、極めて大いに恾怖す。其の聲雷の吼ゆるが如し。罪人之を聞くに、恐怖更に增す。其の手に利き刀を執り、腹肚甚だ大にして、黑雲の色の如し。眼の炎は燈の如し、鉤れる牙は鋒のごとくに利し。臂手皆長くして搖り動かして勢を作すに、一切の身分、皆悉く麁く起つ。是の如き種種の畏るべき形状もて、堅く罪人の咽を繋ふ。是の如くして將ゐて去るに、六十八百千由旬を過ぎて、地海洲城海の外邊に在り。復行くこと三十六億由旬にして、漸漸に下に向ふこと十億由旬なり。一切の風の中には、業風を第一とす。是の如きの業風、惡業の人を將ゐ、去りて彼の處に到る。既にして彼に到り已れば、閻魔羅王種種に呵責す。呵責既に已れば惡業の羂もて縛られ、出でて地獄に向ふ。遠に大焦熱地獄の普く大炎の燃ゆるを見る。又地獄の罪人の啼哭の聲を聞く。悲み愁へ恐れ魄れて無量の苦を受く。是の如くして無量百千万億無數の年歳のあひだ、啼哭の聲を聞くなり。十倍して恐魄し、心驚き怖畏す。閻羅人之を呵責して言く。汝地獄の聲を聞くすら、已に是の如く怖畏す。何に況や地獄にして燒かるるは乾ける薪草を燒くが如し。火の燒くは是燒くに非ず、惡業乃ち是燒くなり。火の燒くは則ち滅すべし、業の燒くは滅すべからず。云云 是の如く苦しめ呵責し已りて、將ゐて地獄に向かふに、大なる火聚有り。其の聚擧れること、高さ五百由旬なり。其の量寬く廣きこと二百由旬なり。炎の燃ゆること熾盛なるは、彼の人の作所の惡業の勢力なり。急に其の身を擲げて、彼の火聚に墮すること、大なる山の岸より推して險しき岸に在くが如し。已上『正法念經』略抄 此の大焦熱地獄の四門の外に、