火に燒けたる屍を噉ふに、猶足ること能はず。昔刑獄に典主して、人の飮食を取りし者、此の報を受く。或は鬼有り、生れて樹の中に在り。逼迮して身を押さるること、賊木虫の如く、大苦惱を受く。昔陰涼の樹を伐り、及び衆僧の園林を伐る者、此の報を受く。『正法念經』 復鬼有り、頭髮垂れ下りて、遍く身體に纏はり、其の髮刀の如くにして、其の身を刺し切る。或は變じて火と作り、周匝して焚燒す。或は鬼有り、晝夜に各々五子を生むに、生むに隨ひて之を食へども、猶常に飢乏す。『六波羅蜜經』 復鬼有り、一切の食は、皆噉ふこと能はず。唯自ら頭を破り、腦を取りて食す。或は鬼有り、火を口より出し、飛べる蛾の火に没するを以て飮食と爲す。或は鬼有り、糞・涕・膿血・洗器の遺餘を食す。『大論』 又外障に依て食を得ざる鬼有り。謂く飢渇常に急にして、身體枯竭す。適々淸流を望み走り向ひて彼に趣けば、大力の鬼有りて、杖を以て打ち、或は變じて火と作り、或は悉く枯涸す。或は内障に依て食を得ざる鬼有り。謂く口は針の孔の如く、腹は大なる山の如し。縱ひ飮食に逢ふとも、之を噉ふに由無し。或は内外の障無きも、用ふること能はざる鬼有り。謂く適々少食に逢ひて、食噉すれば、變じて猛焰と作り、身を燒きて出づ。『瑜伽論』 人間の一月を以て、一日夜と爲して月年を成し、壽五百歳なり。『正法念經』(卷一六意)に云く。「慳貪・嫉妬の者、餓鬼道に墮す」と。
[一、厭離穢土 畜生]
第三に畜生道を明さば、其の住處に二有り。根本は大海に住し、支末は人天に雜はる。別して論ずれば三十四億の種類有れども、總じて論ずれば三を出でず。一には禽類、二には獸類、三には虫類なり。是の如き等の類、強弱相害す。若しは飮み若しは食ひ、未だ曾て暫くも安らかならず。晝夜の中に、常に怖懼を懷けり。況や復諸の水性の屬は、漁者の爲に害せられ、諸の陸行の類は、獵者の爲に害せらる。若しは象・馬・牛・驢・駱駝・騾等の如きは、或は鐵の鉤もて其の腦を斵ち、或は鼻の中を穿ち、或は轡もて首に繋ぎ、身に常に重きを負ひて、