起化處と言ふは、即ち其の二有り。一には謂く闍王惡を起して即ち父母を禁ずる縁有り。禁に因て則ち此の娑婆を厭ひて、無憂の世界に託せんことを願ず。二には則ち如來請に赴きて、光變じて臺と爲りて靈儀を影現す。夫人即ち安樂に生ぜんことを求む。又心を傾けて行を請ふに、佛三福の因を開きたまふ。正觀は即ち是定門なり、更に九章の益を顯す。此の因縁の爲の故に起化の處と名く。
二に「有一太子」より下「惡友之敎」に至る已來は、正しく闍王怳忽の間に、惡人の悞る所を信受することを明す。「太子」と言ふは其の位を彰す。「阿闍世」と言ふは其の名を顯す。又「阿闍世」といふは、乃ち是西國の正音なり。此の地の往翻には未生怨と名け、亦は折指と名く。 問て曰く。何が故ぞ未生怨と名け、及び折指と名くるや。答て曰く。此皆昔日の因縁を擧ぐ、故に此の名有り。因縁と言ふは、元本父の王、子息有ること無し、處處に神に求むれども竟に得ること能はず。忽に相師有りて王に奏して言く。臣知れり、山中に一の仙人有り、久しからずして壽を捨てんといふ、命終の已後必ず當に王の與に子と作るべしと。王聞きて歡喜し、此の人何れの時にか命を捨てんと。相師王に答へぬ。更に三年を經て始めて命終すべしと。王言く。我今年老いて國に繼祀するもの無し。更に三年を滿たんこと何に由てか待つべきと。王即ち使を遣し、山に入り往いて仙人に請はしめて曰く。大王子無し、闕けて紹繼無し。處處に神に求めて得ること能はざるに困む。乃ち相師有り、大仙を瞻見するに、久しからずして命を捨て、王の與に子と作るべしといふ。請ひ願はくは大仙恩を垂れて早く赴きたまへと。使人敎を受けて山に入り仙人の所に到りて、具に王請の因縁を説く。仙人使者に報へて言く。我更に三年を經て始めて命終すべし。王の即ち赴けと敕するは、是の事不可なりと。使仙の敎を奉けて還りて大王に報じ具に仙の意を述ぶ。王曰く。我は是一國の主なり、所有の人物皆我に歸屬す。今故らに禮を以て相屈するに、