此の衣因縁、極めて尊く極めて重く極めて恩あり。汝今易く此の飯を得て我に與ふることは、大に汝が好心を領するも、我此の飯を消せず。比丘重ねて佛に白して言さく。佛は是三界の福田、聖の中の極なり。尚消せずと言はば、佛を除きて已外誰か能く消せんや。佛言はく。比丘、汝に父母有りや已不や。答へて言く。有り。汝將て父母に供養し去れ。比丘言さく。佛尚消せずと云ひたまふ、我が父母豈能く消せんや。佛言はく。消することを得ん。何を以ての故に。父母は能く汝が身を生ぜり、汝に於て大重恩有り、此が爲に消することを得ん。佛又比丘に問ひたまはく。汝が父母佛を信ずる心有りや不や。比丘言さく。都て信心無し。佛言はく。今信心有るべし。汝の飯を與ふるを見て大に歡喜を生ぜん、此に因て即ち信心を發さん。先づ敎へて三歸依を受けしめよ、即ち能く此の食を消せんと。時に比丘既に佛の敎を受けて、愍仰して去りぬ。此の義を以ての故に、大に須く父母に孝養すべし。又佛母摩耶佛を生じて、七日を經已りて即ち死して、忉利天に生ず。佛後に成道して、四月十五日に至りて、即ち忉利天に向ひて、一夏母の爲に説法したまふ。十月懷胎の恩を報ぜんが爲なり。佛尚自ら恩を收いて父母に孝養したまふ、何に況や凡夫にして孝養せざらんや。故に知んぬ、父母の恩深くして極めて重し。「奉事師長」といふは、此れ禮節を敎示し、學識德を成じ、因行虧くること無く、乃至成佛まで此れ師の善友の力に猶る、此の大恩最も敬重すべきことを明す。然るに父母及び師長をば、名けて敬上の行と爲す。「慈心不殺」と言ふは、此れ一切の衆生皆命を以て本と爲ることを明す。若し惡縁を見れば、怖れ走り藏れ避くるは、但命を護らんが爲なり。『經』(北本涅槃經卷一〇・南本涅槃經卷一〇)に云く。「一切の諸の衆生、壽命を愛せざるは無し。殺すこと勿れ、杖を行ずること勿れ。己を恕すをもて喩と爲すべし」と。即ち證と爲す。「修十善業」と言ふは、此れ十惡の中に、殺業最も惡なることを明す、故に之を列ねて初めに在く。十善の中には長命最も善なり。