報償の心有ること無し。窮貧困乏すれども、復得ること能はず。辜較諧聲し、放縱に遊散し、數々唐らに得るに串ひて、自ら用ひて賑給す。防禁を畏れず、飮食極無く、酒を喫し美を嗜み、出入期度有ること無し。魯扈抵突にして人情を知らず、睢眄強制にして、人の喜有るを見ては憎嫉して之を恚り、義無く禮無く、自ら用ひて職當して諌曉すべからず。亦復睢父母・妻子の有無を睢せず、又復卒に父母の徳に報ゆることを念はず、亦復師父の恩を念はず、心常に惡を念じ、口常に惡を言ひ、日も成就たらず、道徳を信ぜず、賢明先聖有ることを信ぜず、善を作し道を爲せば度世を得べきことを信ぜず、世間に佛有ますことを信ぜず、羅漢を殺し比丘僧を鬪はしめんことを欲し、常に人を殺さんことを欲し、父母・兄弟・妻子・宗親・朋友を殺さんと欲す。父母・兄弟・妻子・宗親・朋友、憎み惡みて之を見て死せしめんと欲す。佛の經語を信ぜず、人の壽命終り盡き死して後世に復生ずることを信ぜず、善を作さば善を得ることを信ぜず、惡を作さば惡を得ることを信ぜず。是の如き曹の人、男子・女人、心意倶に然なり。違戻反逆、愚癡濛澒なり、瞋怒嗜欲にして、識知する所無く、自ら快善を用て大智慧と爲し、從來する所の生と死して趣向する所を知らず、肯て慈孝ならずして、天地に惡逆す、其の中間に於て僥倖を求望し、長生を得て躬ら不死を得んことを欲すれども會ず當に生死の勤苦、善惡の道に歸就すべし。身に作る所の惡、殃咎の衆趣、度脱を得ず。亦降化すべからず。善を作さしめんとして、慈心もて敎語し、生死善惡の趣く所是有ることを開導すれども、復之を信ぜず。然して苦心(ねんごろ)に與に語りて度脱せしめんと欲すれども益無し。其の人心中閉塞して、意に開解せず、大命將に至り至らんとす時皆悔ゆ。其の後に乃し悔ゆとも當に復何ぞ及ぶべし。豫して善を計せず、窮るに臨みて何の益かあらん。天地の間、五道分明に、恢廓窈窕、浩浩茫茫たり。轉た相承受して、善惡の毒痛、身自ら之に當りて代る者有ること無し。道の自然なる、其の所行に隨ひて、命を追ひて生ずる所、縱捨することを得ず。善人は善を行じ善に從ひ慈孝なれば、樂より樂に入り明より明に入る。惡人は惡を行じて苦より苦に入り冥より冥に入る。誰か能く知る者あらん、獨り佛の知見したまへるのみ。人民を敎語したまへども、信用する者は少し。生死休まず、惡道絶えず。是の如きの世人には、悉く道ふべからず。故に自然の泥犁・禽獸・薜茘・蜎飛・蠕動の類有り、其の中に展轉して世世累劫にも出づる期有ること無く、