解脱を得難し。痛言ふべからず。是を五の大惡・五の痛・五の燒と爲す。勤苦是の如し。比へば火の起りて人の身を燒くが如し。人能く自ら其の中に於て、心を一にし意を制し、身を端しくし行を正しくして、言行相副(かな)ひ、至誠に所作す、語る所語の如く、心口轉ぜず、獨り衆善を作し、衆惡を爲さざれば、身獨り度脱して、其の福徳を得、長壽・度世・上天・泥洹の道を得べし。是を五の大善と爲す。
佛阿逸菩薩等に告げたまはく。我皆若曹に語る、是の世の五惡勤苦是の如し。五痛を起さしめ、五燒を起さしめ、展轉して相生ず、世間の人民肯て善を爲さずして、衆惡を作さんと欲す、敢て此の諸の惡事を犯すこと有る者は、皆悉く自然に當に更々具に歴て惡道の中に入るべし。或は其の今世に先づ病殃を被り、死生得ず、衆に示して之を見せしむ。壽終りて至極の大苦に趣入し、愁痛酷毒、自ら相焦然し、轉た相燒滅して、其の後に至りて共に怨家と作りて、更相に傷殺す。小微より起りて大困劇に至る、皆財色を貪淫し肯て忍辱して施與せざるによりてなり。各々自ら快くせんことを欲して、復曲直有ること無く、健名を得んことを欲すれども、癡欲の爲に迫められ、心に隨ひて思想すれども、得ること能はざるなり。憤を胸中に結びて、財色に縛束せられ、解脱有ること無く、厭足を知らず、己を厚くし欲を諍ひて省録する所無し。都て義理無く正道に隨はず。富貴榮華なれども時に當りて意を快くし、忍辱すること能はず、善を施すことを知らず、威勢幾くも無し。惡名に隨ひて身を焦し勞苦に坐し久しくして後に大に劇し。自然に隨逐し、解け已むこと有ること無し。王法施張し、自然に糺擧し、上下相應して、羅網綱紀、煢煢忪忪として當に其の中に入るべし。古今是有り、痛しい哉傷むべし。佛阿逸菩薩等に語りたまはく。若し世に是有らんに、佛皆慈愍して之を哀みたまふ。威神摧動して、衆惡諸事、皆之を消化す。惡を去りて善に就き、所思を棄捐し、經戒を奉持し、經法を承奉し施行せざるは莫く、敢て度世・無爲・泥洹の道を違失せず、善を快み樂を極めて、甚だ明かなること極無きことを違失せず。佛言はく。若曹諸天・帝王・人民及び後世の人、佛の經語を得て熟々之を思惟し、能く自ら其の中に於て、心を端しくし行を正しくすべし。其の主上善を爲して其の下を率化し撿御して人民に敎語し、轉た相勅令し、轉た共に善を爲し、轉た相度脱せよ。各々自ら端しく守り、慈仁愍哀して、身を終るまで殆らず。聖を尊び孝を敬い、通洞博愛にして、佛語の敎令、敢て虧負すること無く、當に度世・泥洹の道を憂へよ。