此れ夫人既に王の身禁ぜらるることを見て、門戸極めて難く、音信通ぜず、王の身命絶たんことを恐る。遂に即ち香湯滲浴して、身を淸淨ならしめ、即ち酥蜜を取りて、先づ其の身に塗り、後に乾麨を取りて始めて酥蜜の上に安き、即ち淨衣を著けて之を覆ひ、外衣の上に在りて始めて瓔珞を著くること、常の服法の如く、外人をして怪しまざらしむ。又瓔珞を取りて、孔の一頭を蠟を以て之を塞ぎ、一頭の孔の中に蒲桃の漿を盛る。滿て已りて還塞ぐに、但是瓔珞なり。悉く皆此の如くす。莊嚴すること既に竟りて、徐に歩みて宮に入り、王と相見ることを明す。問て曰く。諸臣は敕を奉じて王に見ゆることを許さず。未審し、夫人をば門家制せずして放に入ることを得しむるは、何の意か有るや。答て曰く。諸臣は身異りて、復是外人なり。情通すること有らんことを恐れて嚴しく重制を加へしむることを致す。又夫人は身是女人なり、心に異計無し。王と宿縁業重くして久しく近づきて夫妻なり。體を別にして心を同じくし、人をして外慮無からしむることを致す。是を以て入りて、王と相見ることを得しむ。
五に「爾時大王食麨」より下「授我八戒」に至る已來は、正しく父の王禁に因りて法を請ずることを明す。此れ夫人既に王を見已りて、即ち身上の酥を刮取して、麨團もて王に授與するに、王得て即ち食す。麨を食ふこと既に竟りて、即ち宮内にして夫人淨水を求め得て王に與へて口を漱がしむ。口を淨め已竟りて虚しく時を引くべからず。朝心寄る所無し。是を以て虔恭合掌して、面を廻らし耆闍に向かひて敬を如來に致して加護を請求することを明す。此れ身業の敬を明す、亦通じて意業有り。「而作是言」已下は、正しく口業の請を明す、亦通じて意業有り。「大目連是吾親友」と言ふは、其の二意有り。但目連は俗に在りては是王の別親。既に出家を得ては、即ち是門師なり。宮閤に往來すること都て障礙無し。然るに俗に在るを親と爲し、出家せるを友と名く、故に「親友」と名く。「願興慈悲授我八戒」と言ふは、此れ父王法を敬ふ情深くして人を重んずること己に過ぎたることを明す。